(ニュース62号 2000/10/01)


日米安保条約秘密合意

最大の嘘つき、最高の恥知らずは

雪印乳業か、三菱自動車か、

はたまた誰なのか?

何度でもいわねばならぬ、安保条約の廃棄を!

吉川 勇一

 

 被害者からの訴えをまったく取り合わず、殺害にいたるまで放置したり、被害届や事件調書を改ざんまでして事実をおし隠そうとした警官、さらにそうした不祥事を世間の目から隠そうとする警察幹部、売れ残った古い乳製品を作り直し、新しい日付をつけて売っていた雪印乳業、そして人命にかかわるほどの欠陥を持つ車を売ったことを承知で、長年にわたりその事実をひたすら隠しつづけてきた三菱自動車、大幅な赤字の救済に税金からの援助をもとめながら、自民党や国会議員に巨額の寄付を続けている大銀行、実在せぬ公設秘書をいたことにして、私たちの税金を着服していた国会議員……。

この数ヵ月間、次々と報道されたこうした事実は、警察機構や大企業などが、自分のやっている悪事を十分認識しながら、暴露されるまでは平然とそれを続ける大嘘つき、最高の恥知らずな連中であることを明らかにした。そして、事実が明らかになった後は、どれもこれも、テレビのカメラの前で、ひたすら机にあたまをすりつけてみせるだけだ。よくもこう、嘘つき、恥知らずな連中が警察や大企業の幹部に納まっていたものだと、民衆が怒り、さらには呆れ果てていることも当然のことだ。マスコミが次々と大見出しでそれを報じ続けたことも、また当然のことである。

厚顔無恥な日本国政府の対応

 彼らが大嘘つき、恥知らずであることは間違いないが、しかし、最大の大嘘つき、最高の恥知らずは誰なのだろう? それは警察幹部でも、大企業の経営者でもない。日本国政府である。しかも、この最高の大嘘つきは、それがばれても、頭を机に擦り付けてみせるどころか、その嘘を認めることすらせずに事態をやり過ごそうとしたり、開き直りさえしているのだから、言語道断もいいところである。

 有毒乳製品や、ブレーキの効かぬ欠陥車は、何十人、何百人、何千人という人の命にかかわる重大問題であることは確かだが、日本国政府、歴代の内閣がやってきていることは、それこそ、何十万、何百万という人命、それも日本国だけではなく、多くの周辺の国ぐにまでも巻き込みかねない危険をもっている大嘘のつきとおしだったのだ。

 ことは日米安保条約にかかわる問題である。『朝日新聞』八月三〇日付朝刊は、一面のトップに大見出しで「日米安保密約の全容判明」「核寄港は事前協議せず」「朝鮮有事での出撃も」「米国務省文書に明記」として、一九六〇年の日米安保改定の際に、両国政府が結んだ秘密合意の全容が、米国務省文書から明らかになったと大々的に報じた。この文書によると、秘密合意は、核兵器を積んだ米艦船が日本に寄港したり、朝鮮半島有事で米軍が日本の基地から出撃したりする場合、日本との事前協議は必要ないとの内容を明記しており、いわゆる事前協議が無意味であったことを明らかにしているという。日本の「国是」だとされてきた「持たず、つくらず、持ち込ませず」という非核三原則なるお題目も、まったくの有名無実であったことも明らかである。(ついでに言っておけば、故佐藤栄作首相は、この非核三原則などの「功績」でノーベル平和賞を授与されたのだった。)

『朝日』の記事は、秘密合意について、「日本政府は一貫して否定してきた。しかし、条約交渉を担当した国務省のファイルから合意内容そのものを含む文書が出たことで、密約の存在は動かせなくなった」と断定している。

 この日米安保をめぐる秘密合意については、これまでにもライシャワー駐日大使ら米当局者の証言もあったし、また、今年の四月一九日には、日本共産党の不破哲三委員長が国会での党首討論の際、一九六〇年当時の藤山外相とマッカーサー米大使の署名のある日米間の「討論記録」の全文を示して、核艦船の日本寄港は事前協議なしでできるという密約があることを追及している。今回の『朝日』の公表した文書は、それを別の文書、米国務省自体の発表した資料集によって明確にしたものだ。同紙は同日のほかの紙面でも、米高官四〇名に取材して、こうした日米交渉の経過などを報じており、詳細な解説も付している。

 歴代の政府は、これまで、密約問題や事前協議の不確かさを指摘されるたびに、密約は存在しないと否定しつづけてきた。今回も、日本を代表する大新聞の一つが「密約の存在は動かせなくなった」と大見出しで断じているのに、依然として「日米安保に密約は一切存在しない。これが日本政府の一貫した立場である。こういう文書のひとつひとつについて米政府に問い合わせたり、政府が調査したりすることはない」(外務省北米局長)としている。

 外務省の官僚だけではない。河野外相は「歴代の外務大臣も、そういう密約はないと言明してきており、私もそれと違うことを言うつもりはない」との談話を出した。中曽根元首相は、『朝日』の取材に対して、「ライシャワー元駐日大使が言ったとか、そのほかいくつか情報がありましたね。米側の事情としては、さもありなんという気がしてました。しかし、(私は)そういう政治問題に遭遇しなかったし、せんさくしなかった」と語っている(『朝日』9月12日)。

 これは、嘘が暴露された時、ひたすら頭を机に擦り付けて謝る大企業幹部や警察幹部よりももっと破廉恥ではないか。もし、かりに雪印乳業や三菱自動車の問題についての報道のほうが嘘であり、そういう事実がなかったのだとしたら、それら企業の幹部はどうしただろう? もちろん、怒り狂い、マスコミに対して虚偽の報道の全面的訂正と謝罪を要求し、膨大な損害賠償を求めることだろう。裁判所に告訴をするかもしれない。それが当然の反応のはずだ。

ところが、政府も外務省もそういう気配をまったくみせない。それに、外務省幹部にせよ、外務大臣にせよ、元首相にせよ、その談話は歯切れが悪く、胡散くさい匂いがふんぷんとしているではないか。ひたすら、そういう事実はないというのが政府の立場だ、というだけ。「立場」などが問題ではないはずだ。事実として密約があるのかないのかということであり、それがないというのならば、大新聞が虚偽の報道を大々的にしたことになるわけで、政府は、『朝日』に対して訂正の要求と虚偽の報道の謝罪を求めて当然のはずだ。だが、政府は、新聞報道は嘘だとは決して言わない。争って勝てる見通しがないからだ。つまり、普通の社会関係、普通の人間関係では当然の反応を、政府は示さないのだ。

にもかかわらず、政府はこの嘘を認めようとはしない。ただ、問題がこれ以上政治化せぬように望みながら、時間の経過のうちに話題から消えるのを待つだけである。これは、雪印乳業や三菱自動車の経営者よりもはるかに破廉恥なことではないか。

安保問題に沈黙を守るマスコミ

ついでに指摘すれば、マスコミの反応も正常ではない。今回の『朝日』の密約報道に応じたのは共産党の『赤旗新聞』だけで、それ以外の商業紙も朝日系列以外のテレビも、一切触れなかった。これが国内大企業の破廉恥な商行為事件だったら、仮にどこか一紙が特種で他紙に先んじて報じたにしても、他紙は決して無視せず、後追い記事を載せたことだろう。だが、こと安保条約や核疑惑にかかわる事実のことになると、そういうことをしない。これは不思議なことだ。いや、当の『朝日』の姿勢だっておかしいといわねばならない。あれだけ大々的に日本の歴代政府が嘘をついていたのだと断定しておきながら、政府側がそれを否定したことに一向に反応を示さない。元首相やアメリカの高官、知日学者らからのコメントを載せ続けてはいるが、政府高官や外務省が、『朝日』の報道は嘘だと事実上言っていることになるのに、それ以上の追及はしようとしない。この安保密約と核をめぐる問題は、『朝日』の報道が嘘か、政府の否定が嘘かのどちらかしかないはずなのに、そこにはこれ以上触れようとはしない。この大嘘を、企業や警察の嘘への追及とはちがって、道徳的に、人間的に正面から批判することもしていない。

安保条約の破棄と平和友好条約締結を

 さきにものべたが、安保条約と核の問題は、軍事、戦争にかかわることであり、一朝ことあれば、周辺の他の多くの国ぐにの何百万という人びとの生命・財産を危険にさらすおそれのある問題のはずだ。日本大企業のインチキ商売による被害とは比べられないほどの影響力をもつ。それなのに、安保の問題となると、見えない枠が設けられ、不思議な沈黙の領域が生み出される。これは異常な事態だ。

 東西冷戦が収束し、「北方の仮想敵国・ソ連」がなくなり、「朝鮮半島の危機」なるものが大いに緩和しているという事実、もはや日米安保条約の存在意義など存立しないということを率直に認めることがなぜ出来ないのか。

この春、ベトナム戦争終了二五周年に際しての拙論で、私は安保条約の批判的検討の必要性をのべた(本誌60号)。また、その次の号の『ニュース』では、何人もの識者が、日本の外交政策の転換の必要性を説いている。この密約問題と関連して、もう一度強く指摘しておきたい。日米安保条約の批判的検討を正面から開始し、軍事条約に代わって、この会が主張しつづけてきた「日米平和友好条約」を結び、そして小田実氏が提案している「良心的戦争否国家」日本への道を進むことが求められているのだということを。

(よしかわ ゆういち・市民の意見30の会・東京)